――はじめに
本作は、株式会社インデックス様のゲームブランド、
アトラス様制作ニンテンドーDS専用ロールプレイングゲームソフト、
『世界樹の迷宮V〜星海の来訪者〜』を原作とした、二次創作小説です。
執筆に際し、多数の独自設定や表現、及び人物設定がございますが、
これらの全ては作者の自己解釈に基づくものであり、同社とは関係するものではございません。
また、本作の内容は同ゲームを踏襲したものではありますが、
前述の通りであることを前書きとしてここに申し添えます。
最後に――君は、この物語を読んでもいいし、読まなくてもいい。
序文――虹竜ノ月7日〜脱出〜
鈴鳴りにも似た鋭い音が、沈黙の満ちる闇に生まれた。
「――お前が、殺したのか」
抜き放った銀光を閃かせ、男は問う。
疑心と義憤を投げかけた先――相対する者へと、その震える切っ先を突きつけて。
「いいえ」
だが、返ったのは否定の即答。
「私ではありません。ですが、陛下はまぎれもなく殺害されました……おそらくは、『彼ら』の手によって」
怯みもせず、淡々と告げる声音はしかし、甘い艶を含んでいる……それは女のものだった。
「俺が、それを信じるとでも――」
「でしたら、今すぐこの場で私を斬り捨てていただいても構いません」
ですが、と一拍置き、女は続けた。
「数分後。この部屋の全員が『彼ら』の手にかかるのは、ほぼ確実かと思われます」
「な……!?」
そう断言された瞬間、男は思わず周囲に視線をやった。
すでに夜の帳が下り、室内の光は小さな灯火ひとつ。ほぼ八割が闇で満たされた中に、自分たち以外の人影は見えない。
だがもし、息を潜め、殺意という名の牙を研いでいる襲撃者達がここに向かっているのだとしたら――
「……ぅ……」
戸惑う男をよそに、薄明りの中からもうひとつ、掠れ声が上がる。
女の背後に隠れるように、やや小柄な少女は胸先で手を組み、震えていた。
――愛らしい表情を、悲嘆の色に染めながら。
その、今にも泣き出しそうな感情の色を読み取ったのか、女はふっと微笑する。
「大丈夫ですよ。何も、怖がられることはございません」
「あ……」
赤子をあやすような、やわらかな囁き。
それが少女の耳朶に届くや否や、震えがだんだんと落ち着きを見せ始めて……唇を、凛と強く引き結ぶ。
それを見取った女はもう一度眼前へと顔を向けた。
二つの視線が、突きつけられた白刃の上で絡み合いながら、問答は再開される。
「さて、どうなさいますか」
「それはこちらの台詞だ。……お前は、いったい俺に何を求めている」
再度の問いに――くすくすと、闇の中で声が響き出す。
思惑通りの答えを引き出せた。そう言わんとするかのように、女は満面の笑みを浮かべて続けた。
「陛下が殺害され、この王都はかつてないほどの窮地を迎えています。加えて、先ほど申し上げました『彼ら』も、その期に乗じて間もなくここに雪崩れ込んでくるでしょう」
「……」
「このままでは多勢に無勢。哀れか弱い女ふたりである私達は抵抗すらままならず、慰み者として陵辱され尽くされた挙げ句、血の海に沈みかねません」
その美貌からは想像もつかないような凄惨なる結末を、躊躇いもなく口にする女は、笑顔を決して崩すことはない。
「それを何としても防ぐために、ここで今、提案をしたいと思います」
「提案、だと?」
人差し指を一本立てた女は、ええ、と首肯した。
「単刀直入に言います」
今なお刃を向けられて、それでも笑みを絶やさぬまま、女の唇は……言の葉を紡いだ。
「私たちと一緒に――この国を、出ませんか?」
原作――『世界樹の迷宮V〜星海の来訪者〜』(ATLUS)
著――天波浅葱(Recovery&Reload)
現王カノープスの崩御により、かねてより計画されていた王都アルゴーへの侵攻計画は、先程滞りなく終了。
あらかじめ王城に先行させていた部隊の破壊工作により、国軍の大半は混乱により無力化。
城内の制圧も完了し、現在は新王陛下の受け入れ準備中。
しかし、目下最大の目的であった王女の身柄拘束については、失敗に終わる。
捕獲任務にあたっていた人員の斬殺、及び焼殺死体が確認されており、おそらくは何者かの手引きで脱出したと思われる。
現地に残存した部隊で周辺の捜索に当たったが、すでに逃走されたため、現在追跡準備中。
王女一行の足取りは、現在も知れない――。
(虹竜ノ月7日、ラス・サビク記す)
『Asterism』